鼠講勧誘
3.31, 2014
20歳になった年の瀬、自宅に1本の電話が掛かってきた。
「オゥ、コギソか?今から迎えに行くわ。家の前でまっとれや」
唐突に言われたが、それが誰なのかわからなかった。でも声にとても迫力があって、思わず「はい」と返事した。
15分ほどすると家の前に1台の車が止まった。黒いポルシェだ。中を覗き込むとカトウ先輩だった・・。
カトウ先輩は中学の先輩、ていうか弟が同級生で僕らの学年のバンチョーだったわけで。
地元ではブイブイいわせてるヤンキー兄弟のお兄ちゃんなわけで。当時いろんな悪いウワサを聞いてたわけで。
お姿を拝見するのなんか、卒業以来5年ぶりくらいなわけですよ。
当然そんな極悪な先輩と繋がりなんてあるわけなく、意味わかんねと思いつつも、なんかおっかないのでポルシェの
助手席に座ったんですよ。ポルシェかっけー。無言で車を走らせるカトウ先輩。なにこれコワイ。
見知らぬアパートに到着すると、カトウ先輩が「あがれや」と言って部屋に招き入れました。先輩の素敵なお住まいでした。
壁に特攻服が飾ってある部屋には既に4人の先客がいて、何故か正座して一列に並んでた。
全員知ってる顔だ。中学の同級生。その顔ぶれのカテゴリーは様々だった。
A君(カトウ先輩の弟 ヤンキー)
B君(マジメで頭イイ)
C君(おもしろキャラ)
D君(ちょいヤンキー)
僕(いろんな意味で普通)
そんなに仲がイイってのもいない、なにこれ?一体何がはじまるんです?と目配せしてもA君を除いて不安そうな顔してるだけだ。
僕が皆と同じように末席に正座すると、正面にカトウ先輩が黒いビニールレザーの座椅子に座ってタバコをふかし話し始めた。
「今日は、おまえらに、スゲェ、いい話、してやろうと思ってさ、ケェッ・・俺な、最近商売始めてな、ケェッ・・、そんでお前らにも
儲けさしてやろうと思って呼んだわケェッ・・。その商売ってのが、まず俺がダイヤを問屋から仕入れてよ、、ケェッ・・」
お決まりである。二十歳になるとやたら話のある、あれである。「ネズミ講」。上手に言えば「マルチ商法」の勧誘である。
聞きながら思った。何故このメンバーに選ばれたのか?全く意味がわからん。そしてコレはどうする?コワイ先輩のお誘い
をバッサリ断れるのか俺。なんかムリっぽい。
普通じゃないしなカトウ先輩。しゃべりながらケェッケェッ言うのも何かコワイ・・。
「・・・てな感じで、まずはおまえらが問屋になる権利20万いるけどよ?ケェッ。ちなみにA(弟)は「やる」ってよ、ケェッ・」
A君はサクラだと思った。兄弟でより強固な勧誘体制をとってきてる。
「お前らどうするよ?やるのか?やんねぇのか?ん?ケェッ」先輩が言った。
B君「ぼ、僕、やりま・・す。お願いします。」1人目アウト。
C君「僕、お金がなくて・・」
と言いかけたその時、カトウ先輩がでっかい声で
「分割もできるぜぇ、月1万でどうよ、ケェッ」
と言った。C君は泣きそうな顔で
「じゃ、分割でおなしゃす」2人目アウト。いよいよヤバイどうすんのコレ。と思っていたら、
「俺さ、やめとくわ。」
D君があっさり言った。キッパリ言った。
ここぞとばかりに、すぐさま流れで
「僕もやめておきます。」早口の小さい声で僕も言った。2秒で言った。
カトウ先輩とA君はまさか断られるとは思ってもみなかった表情をして、しばらく変な空気になった。
でもとりあえず今日は2人勧誘できたからか、
「お前ら、損しとるのぉ、ケェッ、まぁいいや、Dの車で帰れや、コイツらは申込みしてくからよ、ケェッ」と僕らは解放された。
アパートを出るとき、振り返ると恨めしそうな顔でB君とC君が睨んでた。気持ちは理解した。
後から聞いた話では家が近所って理由でB君が僕をあの場にと提案したらしい。あれ以来B君には会ってないな。元気かな。
帰りの車の中で、D君が「俺、中卒で働いてるやん。金稼ぐってああいうことじゃねぇんだわ。」と言ってたのが印象的だった。
そんなD君は今土建屋の社長さんです。そういうことだと思う。
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